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◉ 彫刻家シーガルによる《ピカソの椅子》
アメリカの彫刻家ジョージ・シーガル(1924〜2000)は《ピカソの椅子》(1973 ニューヨーク、ソロモン・グッゲンハイム美術館)を制作した。この文脈で見れば、けっして皮肉としてこの作品を理解するべきでないことがわかる。《ピカソの椅子》は、シーガルが得意とした石膏像に、見つけた素材でつくったオブジェを結びつけ、モデルと彫刻家を表現している。ピカソのエッチング、ヴォラール連作74番(1933)を三次元に置きかえているのだが、逆に、シーガルが手本でピカソがそれをコピーしたように見える。
実際、シーガルは、ここで略述した空の椅子のモティーフの伝統を継承している。そして、作品の引用を、それを制作した美術家の、オブジェによる肖像へと発展させた。いわばゴッホの逆になっているのである。ゴッホとの関係は、シーガルによる二次元から三次元のイメージへの(逆の)置きかえとともに、不思議なことに、いまだ深く考察されていない。
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左)シーガル《ピカソの椅子》 1973 ニューヨーク、ソロモン・グッゲンハイム美術館
右)ピカソ《ヴォラール連作74番》 1933