第5回 美術家記念の総合芸術
◉ デンマークの国民的彫刻家トルヴァルセン
個人の美術家の作品やコレクションを収蔵する美術館、家やアトリエ、墓廟が一体となり、いわば総合芸術として美術家を記念するモニュメントもつくられている。こうした大がかりなモニュメントでは、美術家と作品が何重にもおよぶ複雑かつ緊密な関係を結んでいる。美術家記念の総合芸術は19世紀に成立し、その伝統は現代にいたるまで継承される。
新古典主義の彫刻家ベルテル・トルヴァルセン(1770〜1844)はコペンハーゲン出身で、1797年ローマに渡る。そこで、大規模なアトリエを営み、ヨーロッパ各地から注文を受け、盛んな制作活動を展開した。トルヴァルセンは注文を受けることなく自費で、自分の雛型にもとづく大理石彫刻を次々に制作させ、年齢とともにその数は増えていった。トルヴァルセンはまた、古代と同時代の美術品の蒐集をローマで始め、作品数を増加させていく。
ディトレフ・マルテンス(1795〜1864)は、教皇レオ12世が1826年10月18日、ローマ、パラッツォ・バルベリーニのトルヴァルセンのアトリエを訪問したときの情景を描いている。マルテンスはデンマーク出身の画家で、ローマに長期滞在し、トルヴァルセンと親交があった。この絵画から、トルヴァルセンのアトリエにはコペンハーゲン聖母聖堂の彫刻群をはじめ多数の作品やモデルが置かれ、美術館のようになっている様子を確認することができる。
マルテンス《レオ12世のトルヴァルセンのアトリエ訪問》
1830 コペンハーゲン、トルヴァルセン美術館