第1回 「共通善」の話をしよう
『ライプニッツ著作集』第II期・第1巻『哲学書簡』は、ジュンク堂書店池袋本店や書泉グランデほかの主要書店で刊行記念フェアがひらかれるなど、恵まれた環境のうちにスタートを切ることができました。ご予約くださった方々や関係各位のあたたかいご支援、心からお礼申しあげます。
第I期『ライプニッツ著作集』全10巻が、ライプニッツの普遍学構想の骨格をなす論考を精選したものだったの対し、第II期・全3巻は、17-18世紀という激動期に「共通善」とは何かを問いその実現のために協力をよびかけたライプニッツのアクチュアルな思想的格闘をクローズアップします。
第1巻『哲学書簡』では、青年期(17歳)にホッブズに関して師トマジウスに問いかけた手紙にはじまり、壮年期をへて円熟期(59歳)にいたるまで、手紙というコミュニケーションツールを駆使してスピノザなど同時代の学者や貴婦人たちと自然・世界・人間のありようを議論しながら共通善に寄与するマナーを磨いたプロセスが明かされます。宮廷顧問官でもあったライプニッツにとって、哲学や普遍学は真理を追究する手段にとどまらず、おのおのが善く生きる理想社会を実現する方法を示す不可欠にしてまっとうな手続きでもありました。
続刊の第2巻『法学・神学・歴史学』、第3巻『技術・医学・社会システム』では、より具体的な方法論が明かされます。
おりしもライプニッツ没後300年を迎える来年(2016) 7月、ハノーファーで第10回国際ライプニッツ会議が開催されます。
◎第10回国際ライプニッツ会議
「私たちの幸福と他者の幸福のために」
会期 2016年7月18日〜23日
場所 ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ大学(ドイツ)
詳細・問合せ→日本ライプニッツ協会事務局
主題は、まさしく「共通善」。第II期の監修者のおひとり酒井潔先生が会長をつとめる日本ライプニッツ協会も各国のライプニッツ協会とともに共催し、このテーマのもとに独自のシンポジウムを開催するとのこと。
昨今、「共通善」といえばハーバード大学のマイケル・サンデル教授のキイ・コンセプトとしてさかんに語られていますが、「共通善」こそライプニッツがめざした窮極のゴール。共通善へのモチベーションをになう主体が「モナド」にほかなりませんでした。
宗教・文化や経済のギャップがますます深刻になりつつある今日、「私」の幸福は「他者」の幸福なしには保てないことを熟考し、共通善への方途をあらゆる角度から検討、模索したライプニッツのダイナミズムを共有しながら、おおいに語り合いたいものです(十川治江)。