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「デレク・ベイリーを聴く会」vol.09報告(2014.11.29)

「デレク・ベイリーを聴く会」vol.09の会場内
音楽評論家の湯浅学さん(中央)をお迎えしたサウンドカフェ・ズミ。右端は本会のモデレーターの一人、山崎春美さん。左端はカフェ・ズミのオーナー、泉秀樹さん。


2014年に生誕100年を迎え、独自の宇宙哲学をもとに音楽活動を行った作曲家/ピアニスト/バンド・リーダーのサン・ラー(1914-1993)。おそらくデレク・ベイリー(1930-2005)とは生前、接点はなく、音楽スタイルもまったく異なっているのですが、この二人には、似ているところがいくつかあります。

第9回「デレク・ベイリーを聴く会」は、この10月に『てなもんやSUN RA 伝 音盤でたどるジャズ偉人の歩み』(Pヴァイン、2014)を刊行された音楽評論家の湯浅学さんをお招きし、サン・ラーとデレク・ベイリーの共通点にも踏み込んで、関連作を聴きました。

デレク・ベイリーを聴くのは主にCDで、執筆中に流しっぱなしにすることが多いという湯浅さん。昨日も執筆しながらかけていたのは、DVDのPlaying For Friends On 5th Street (Incus DVD SG02/Straw 2 Gold Pictures DVD S2G-002)。


Playing For Friends On 5th Street

2001年12月29日、ニューヨークのダウンタウン・ミュージック・ギャラリー(同地で生活したことのある湯浅さんにもおなじみのレコード・ショップ)でのライヴで、まさにお客さんと膝を突き合わせるようにして、即興演奏に打ち込んでいる様子がクリアに捉えられています。軽くチューニングをしてから、すぐに演奏に入っていくのがすごくかっこいいと湯浅さん。ギターのフレットをめまぐるしく押さえる、細く長い指がとても印象的です。

Playing For Friends On 5th Streetの動画
http://vimeo.com/64879398

続いて聴いたのは、湯浅さんお気に入りのLot 74 Solo Improvisations (Incus 12) 。実はこれ、筆者も「デレク・ベイリー、最初の一枚」として、初めて聴くという人におススメしてきたアルバムです。特にA面22分のタイトル曲は、左右のスピーカーを鋭いギター音が飛び交い、ロック・ファンも仰天すること請け合いです。湯浅さんはヴォーカリゼーションのみの曲(B面1曲目Together)も面白いと指摘されました。

Lot 74 Solo Improvisations

さて、冒頭で触れたサン・ラーとデレク・ベイリーの共通点ですが、まずレコード/CDショップなどでは、どちらも「フリー・ジャズ」のコーナーに分類されています。しかし、厳密にはサン・ラーもデレク・ベイリーも「フリー・ジャズ」と言い切るのは少々異論が出そうです。まあ、どちらも独自のジャンル・カテゴリーを形成していることが共通していると言ったほうがいいかもしれません。

湯浅さんは『てなもんやSUN RA 伝 音盤でたどるジャズ偉人の歩み』 で、サン・ラーの音楽について次のように書かれています。──「音楽を作りだそうとするだけでなく、演奏に自らを仕向けているうちに、いつのまにかそこにある、あるいはふとしたはずみに出現している」

一方、『デレク・ベイリー:インプロヴィゼーションの物語』の著者、ベン・ワトソンはこう書いています。──「サン・ラーのように、ベイリーも電気そのものの奇妙な本性を探っているように思える」

いかがでしょうか。湯浅さんの著書のタイトルを借りれば、サン・ラーもデレク・ベイリーも「音楽を探り、どこからか音楽を降ろすような演奏」をしていると言えそうです。

音楽を召喚するものとしての「弦」に着目したのではと思わせるアルバムが、サン・ラーとデレク・ベイリーにはあります。どちらも「String(弦)」をキーワードにしていて、前者はSun Ra and His Astro Infinity Arkestra Strange Strings (Saturn Research LPSRES502H, 1966)、一方ベイリーのほうはString Theory (Paratactile PLE1109)です。




上/サン・ラー Strange Strings、下/ベイリーString Theory

Strange Stringsは、サン・ラーほか10人以上ものアーケストラ全員が弦楽器を弾き、得体の知れない音塊がうごめいているような演奏で、湯浅さんいわく、サン・ラーのアルバムの中でも前衛を極めた一枚とか。ベイリーのString Theoryは、エレクトリック・ギターのフィードバック音だけの演奏で、こちらもベイリーのアルバム群の中でも特異な一枚となっています。ちなみにString Theoryとは、「宇宙は振動する弦でできている」という物理学の仮説のひとつで、日本では「超ひも理論」「スーパーストリング理論」の名称で知られています。ベン・ワトソンによれば、「ベイリーは無調を採り入れたが、それは形式上の拘束条件としてではなく、アインシュタイン後の音階の関係性の宇宙を知る鍵としてだ」とのことです。

会の後半はいつものとおり、年代順にデレク・ベイリー関連のアルバムを聴いていきました。dzumi.list9.pdf

1973年の録音から、Kenny Wheeler Song for Someone (Incus 10)、当初はオープンリールテープのフォーマットでリリースされたIncus Taps (Cortical Foundation organ of Corti 10)、クラシックの名門レーベルからボックスセットの中の一枚としてリリースされたIskra 1903 Free Improvisation (Deutsche Grammophon 2740 105)。アルバムをかけ終わると、湯浅さんも思わず「いやあ、楽しいなあ」。


Song for Someone
Incus Taps

上からSong for SomeoneIncus TapsFree Improvisation

今回の締めくくりはサン・ラー関連ということで、Sun Ra And His Arkestra The Second Stop Is Jupiter(Norton Records ED-353, 2009)の中から、サン・ラーの最初期のピアノの弾き語りStuff Like That There(軽いラップのようで、とてもチャーミング!)。そしてカフェ・ズミのオーナー・泉秀樹さんの推薦盤The Marzette Watts Ensemble(Savoy Records MG-12193, 1969)の中からLonely Woman。ご存知オーネット・コールマンの名曲ですが、ESPレーベルのアルバムで有名なヴォーカリストPatty Watersが、なんと歌詞を付けて情感豊かに歌っています。なぜこの曲がサン・ラー関連かというと、Strange Stringsでもパーカッションを担当していたClifford Jarvisが一時期、結婚していたのがこのPatty Watersだったとのこと。こうした知られざるジャズ史をひもといていけるのも、本会の醍醐味と言えるでしょう。




上からThe Second Stop Is JupiterThe Marzette Watts Ensemble

さて、2014年の締めくくりとなる「デレク・ベイリーの会」vol.10は、12月27日(土)の18:00〜。特別ゲストにKILLING TIME、AREPOS、おu、ヒカシュー等で活躍するキーボード奏者/マルチ・インストゥルメンタリスト/作曲家の清水一登氏をお迎えします。 http://www.poseidon.jp/OU/

search&reflect

清水さんにお話しいただくテーマは「アンサンブルにおける即興」。John Stevens著の集団即興演奏の手引きSearch and Reflect (清水さんご自身が翻訳された抜粋をご用意いただきます)を参照しながら、Spontaneous Music EnsembleやCompany、はたまたHenry Cow等のアヴァン・ロックグループによる集団即興演奏のあり方に踏み込んでいただきます。集団即興演奏と他の方法による演奏の違いや、環境の一部という立場で能動的に演奏することなどについても触れていただく予定です。vol.10案内はこちらへ

最後に2015年の予定もちょっと。1月31日(土)第11回の特別ゲストは、弊社が2014年12月に刊行した『ムーン・トラックス:タイガー立石のコマ割り絵画劇場』にも文章をお寄せいただいた美術評論家の椹木野衣さん(DB批判が飛び出すか!?)、2月28日(金)第12回の特別ゲストは、東京芸術大学大学院音楽研究科准教授の毛利嘉孝さん(デレク・ベイリーが活躍した時代の英国文化論の予定)です。2015年もさまざまな切り口でデレク・ベイリーに向き合っていこうと思います。引き続きよろしくお願い申し上げます。


デレク・ベイリーを聴く会vol.10

「デレク・ベイリーを聴く会 」vol.10 :70年代の音源[8]
ゲスト:清水一登(ミュージシャン/作曲家)
2014年12月27日(土)18:00〜

会場:Sound Cafe dzumi サウンドカフェ・ズミ(吉祥寺)
 JR吉祥寺駅南口より徒歩5分
 武蔵野市御殿山1-2-3 キヨノビル7F tel:0422-72-7822



<vol.9ゲスト 湯浅 学さん プロフィール>
1957年、神奈川県横浜市生まれ。各種編集・執筆業務に携わり、82年に根本敬さん/船橋英雄さんらと「幻の名盤解放同盟」を結成し、廃盤となった個性的な歌謡曲の紹介・復刻、大韓民国のロック研究等を推進。86年に音楽評論を活動の中心に定め、以後、雑誌やラジオなど多方面で活動を続けてらっしゃいます。
主な単著に『人情山脈の逆襲』(ブルース・インターアクションズ、1996)、『音海 : 夜明けの音盤ガイド』( ブルース・インターアクションズ、1997)、『音山 : 呼べば応える音盤の木霊書』(水声社、1999)、『レコード・コレクターズ増刊・嗚呼、名盤』(ミュージックマガジン、2006)、『音楽が降りてくる』(河出書房新社、2011)、『音楽を迎えにゆく』(河出書房新社、2012)、『アナログ・ミステリー・ツアー 世界のビートルズ 1967-1970』(Pヴァイン、2013)、『ボブ・ディラン ロックの精霊』(岩波新書、2013)、『てなもんやSUN RA 伝 音盤でたどるジャズ偉人の歩み』(Pヴァイン、2014)などがあります。
また、即興演奏にも力をそそぎ、96年、自身のユニット「湯浅湾」を結成し、演奏活動も展開。





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