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美術館の神聖化

トルヴァルセン美術館では、配置の工夫によって、遺体と作品=個人美術館の関係が明確に表現されている。しかも、彼の代表作のあるコペンハーゲンの聖母聖堂に地理的に呼応してもいる。

聖母聖堂は創建こそ12世紀にさかのぼるものの、くりかえし建て直されている。現在の聖堂は、クリスティアン・フレデリック・ハンセン(1756〜1845)の設計による新古典主義の建築で、1829年に献堂された。トルヴァルセンは1819年、その装飾を託された。《キリスト》、《洗礼の天使》、《12使徒》は献堂式までに完成していた。これらは、この彫刻家の代表作としてよく知られている。聖堂内では《キリスト》と《洗礼の天使》が主軸上に、《12使徒》はその両側に6人ずつ並んでいる。

トルヴァルセン美術館のつきあたり中央に設けられた「キリストの間」には、聖母聖堂の配置に従って、これらの作品の複製が並べられている。そして、「キリストの間」の主軸は、聖母聖堂の主軸におおむね平行する。この「キリストの間」の位置づけと複製の配置は、着工時にすでに決まっていたようだ。


《聖母聖堂内部》《キリストの間》トルヴァルセン美術館
左)《聖母聖堂内部》  1829年献堂 コペンハーゲン
右)《キリストの間》  1839-48 コペンハーゲン、トルヴァルセン美術館

19世紀には、聖堂、モニュメント、美術館が混ざりあい、独特の融合体が形成される。ゲーテにとって美術館は聖所であり、ヘルダーリンは美術館を美の聖堂と呼んでいる。美術館が神聖なものとみなされる一方、聖堂がモニュメントや美術館のような性質をもつようになる。そして、偉人を記念するための建造物は、聖堂でなくとも宗教的性格をもつようになる。

こうした現象は、ナポレオンの支配下で育まれたナショナリズムとロマン主義が培った、偉人とくに芸術家の神格化を背景に、キリスト教の儀式や実践の伝統を枠組にして進行する。宗教的コンテクストになじみ深い偉大さや価値観、儀式と実践の美術家信仰への適用は、ほかの次元でも実現した。美術作品の聖像のような扱いや、美術家の遺体の聖遺物のような扱いはその一例である。

コペンハーゲンのトルヴァルセンの美術館=墓廟もこうしたコンテクストに位置づけられる。実際、これらの施設は世俗の聖堂にほかならない。そこにはいるものは、観者ではなく巡礼である。





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